三一書房『日本庶民文化史料集成』第九巻「遊び」の中に、河村洋子さんの解題校注とともに「投扇之記」の全文が収録されています。
それによると、「投扇之記」の底本は早稲田大学にある文化六年板本。文化六(1809)年の書で、構成は、序が六丁、本文は十丁。序文の末尾に、珍々居士(ちんちんこじ?)という作者らしき名が書いてあります。
そして、序文の柱には「投扇式序」、本文の柱にも「投扇式」と書かれているそうで、同じく文化六年の珍々居士による書「投扇式」(日比谷図書館蔵)と全く内容が同じであるため、
文化六年の「投扇之記」は、同年の「投扇式」の外題(げだい)替え
と考えられるのだそうです。
「投扇式」という書はいくつもあって混乱するため、自主的にタイトルを替えた、ということでしょうか?
ただし、この早大所蔵の底本は残念ながら五丁目が欠けているそうで、本文が九丁分しかありません。その欠けている部分は、36種の銘定のうちの25点から30点の部分が相当します。新扇堂の扇には全て記されてありますので、おそらくこちらの「投扇之記」から取ったのではなく、「投扇式」から取ったか、あるいは完全な写本を入手しているかといった所でしょう。
上記の『日本庶民文化史料集成』に収録されている「投扇之記」も、途中が欠けたままになっており、そこに入るべき「蔦の細道 廿五点」「五 琴 廿六点」「芳野川 廿七点」「芳野山 三十点」の4つは、日比谷図書館蔵本から補足されています。
なお、この『日本庶民文化史料集成』は、東京都墨田区横網の「江戸東京博物館」最上階の図書館に所蔵。他の図書館にもあると思います。