投扇興に関する史料(古文書)

 岩波書店の『国書総目録』で「とうせん…」のあたりを調べると、江戸時代には次のように投扇興に関するたくさんの史料があることがわかります。 浅草をはじめ、現代において全国で行なわれている各流派の投扇興は、それぞれこうした文献を研究してルールや道具を再現させてきているわけです。
 ただ、いくつかは投扇興の「手引き」程度のようなもので、同じ源氏物語形式もしくは百人一首形式であっても銘定の解釈や点数にいろんな説があったりします。伝統遊戯研究家でもあられる其扇庵夢蝶先生(「しあわせ家族計画」に投扇興の「名人」として出演されていた方です)によりますと、「間違っている物もけっこうある」のだそうです。
 江戸時代というのは何しろ投扇興が出たばかりの時期なので、体系立てて書かれた書物ばかりでもなく、投扇興の道具を製造販売していた扇屋さん、あるいは人形屋さんが独自に自分の店用に書いた説明書にすぎなかったりします。

 「国書総目録」は大きな図書館ならどこにでもあるもので、「投扇…」が載っているのは全9巻の中の第6巻に当たります。他にも「おうぎ…」とか「なげ…」とかで始まる文献がないか調べてみましたが、投扇興に関連しそうなのはあまり見当たりませんでした。今後も新たに存在がわかった史料があればおいおい追加していくことにします。

 さて、その国書総目録などの目録中から、「投扇」に関する文献のみを抜粋してみました。国書総目録では年代が書かれていなくても、他の目録(香川大学の神原文庫など)で書かれていたら補足するなどしてあります。
(何しろ現物は草書体で書かれた物が多いようなので、実際に見る機会があっても私などには読めないかもしれませんが…)
あと、円満院に伝わる古い点式についても併記しました。
 国書総目録では五十音順に並べてありますが、刊行年が不明な物を除き、基本的に年代順に並べてみました。同名の書もあるのでご注意ください。
 凡例がよくわからなかった部分もあるので列の配置が一部不適切かもしれませんが、わかり次第訂正します。
「日比谷・加賀」とある部分の表記については、加賀文庫のある広尾の「東京都立中央図書館」で統一しました。


早稲田大学の「古典籍総合データベース」では、早稲田大学図書館が所蔵する古典籍について、その文献の関連情報や資料、そして全文の画像を公開しています。「投扇」で検索すると3点(投扇興図式、投扇式(珍々居士著)、および「投扇興 源氏五十四帖点式図」)がヒットしますので、その画像のページにリンクさせていただきました。

書名 分類 著者 刊行年 所在 備考
投扇興図式
(〜ずしき)
一冊 遊戯 泉花堂三蝶・述
投扇庵好之・編
安永二
(1773)
学書言志 別名:投扇式
この書の「」に、いわゆる投楽散人其扇の「投扇興の由来」が述べられている。
また、扇の持ち方、土俵の上の屋根、行司の軍配、百人一首形式の銘定などが紹介されている。
国立国会図書館
東京国立博物館
早稲田大学図書館
東京大学駒場図書館
東京都立中央図書館加賀文庫
蓬左文庫・尾崎久弥コレクション
投扇例
(〜れい)
一冊 遊戯 投楽散人其扇 安永二
(1773)
早稲田大学図書館(玉晁叢書43) 百人一首形式による銘定を表わす絵が、それぞれの歌と共に描かれている。
新潟大図書館については、「古典籍総合目録」により補充。
絵入小本
国立国会図書館
香川大学図書館神原文庫
名古屋市立鶴舞中央図書館
北海道立図書館・栗田文庫
旧下郷図書館
旧蓬左文庫
新潟大学附属図書館・佐野文庫
投扇新興
(〜しんきょう)
一冊 遊戯 輪台山人 安永三
(1774)
国立国会図書館  
投扇興譜
(〜ふ)
一冊 遊戯 東山隠士盞桃
(盛桃)
安永三
(1774)
学書言志(版本写) 別名:投扇興式法
絵入小本
国立国会図書館
東京国立博物館
香川大学図書館神原文庫
國學院大學図書館
東京都立中央図書館加賀文庫
西尾市立図書館・岩瀬文庫
蓬左文庫・尾崎久弥コレクション
日本教育文庫
(黒川真道・衛生及遊戯篇)
投扇式
(〜しき)
一冊 遊戯 松本伊兵衛 安永三
(1774)
    大阪出版書籍目録による。上記とは別物。
青楼美人合姿鏡
(せいろうびじん
あわせすがたかがみ)
  浮世絵 北尾重政
勝川春章
安永五
(1776)
  西尾市岩瀬文庫コレクション 吉原の遊女が芸事や座敷遊びに興じる絵の中に、投扇興も描かれている。
投扇興仕方
(〜しかた)
一帖 遊戯 京山原著
秋毫主人序により後刊
寛政元
(1789)
香川大学図書館神原文庫
東北大学附属図書館・狩野文庫
東京都立中央図書館加賀文庫
投扇興の起源、ルール、点式が書かれている。
銘定は百人一首。扇の持ち方の図や、軍配の絵なども。 
扇容曲
(せんようきょく)
一冊   五明堂蔵版 寛政二
(1790)
  香川大学図書館神原文庫 絵入。扇の投げ方や試合の様子を表わす。
投扇記
(〜き)
一冊 遊戯 (藤原隆明奥書) 寛政九
(1797)
東北大学附属図書館・狩野文庫  
続史愚抄
(ぞくしぐしょう)
  通史 柳原紀光編 安永六

寛政十
  多数 安永三年六月十九日に御前で投扇が行なわれ、関白以下、上達部、中納言ほか殿上人たちが見物した、と記述
半日閑話
(はんにちかんわ)
  随筆 大田覃  写本が
寛政七
天保三
など
国立国会図書館など多数 「安永二年の初めより投扇興流行す」との記述あり
投扇式
(〜しき)
一冊 遊戯 珍々居士 文化六
(1809)
東京都立中央図書館加賀文庫 投扇興図式とは別
雑芸叢書
投扇之記
(〜のき)
一冊 遊戯 珍々居士 文化六
(1809)
早稲田大学図書館 著者・内容ともほぼ同じで、上記「投扇式」の改題かと考えられる。
名所和歌投扇興図式
(〜ずしき)
一冊 遊戯 和泉屋利兵衛・述
投扇菴好之・編
文化十
(1813)
香川大学図書館神原文庫
東京大学附属図書館
安永二年の投扇興図式とは別で、江戸の書。絵入り。
海録
(かいろく)
二十
随筆 山崎美成 文政六
(1823)
    安永三年に流行、その後、文化十年にも流行。
文政年間にも中川五兵衛という人が浅草寺の境内でこの遊びを始めたが、公儀から禁止されたので流行らなかった
との記述
きゝのまにまに 一冊 随筆 田中大秀       文政五年に流行し、辻々に店を開いて道具を売ったり賭けたりしたので、翌年八・九月に停止された、との記述
泰平餘楽・投扇興 一帖 遊戯 山東京山
(さんとう・きょうざん)
文政八
(1825)
西尾市立図書館・岩瀬文庫  
投扇興点式繪圖
(〜てんしきえず)
      弘化二
(1845)
    「色刷 紫式部石山篭綴 源氏之五十四帖」
30x43cm 1枚の図。
これは円満院に伝えられているもので、写真を撮らせて頂いてます。
武江年表
(ぶこうねんぴょう)
八巻
八冊
年表 斎藤月岑(げっしん)編
(または斎藤幸成)
嘉永元
(1848)
  正編は嘉永三年刊。写本は京大、慶大、
東北大、日比谷図書館など多数。
続編は明治十一年一月に脱稿したが、
同年三月月岑の死去により生前は刊行されなかった。
金子光晴氏により校訂され、平凡社から
東洋文庫で刊行。昭和43年。
安永三年、投扇の遊びが流行り、貴賤ともにこれで遊んだ。
文政五年、広く流行し、街の辻々に店を出し、賭け事にしていたので八月に停止される。
嘉永二年七月大坂より流行。寛政の頃、天保の頃にも江戸で流行。
等々の記述
投扇興 一冊 遊戯     西尾市立図書館・岩瀬文庫  
早大図書館(源氏五十四状点式図)
大橋図書館
投扇興の仕様
(〜しよう)
一帖 遊戯     東京都立中央図書館加賀文庫 投扇興のルールと、源氏物語形式のカラフルな点式。
奥付に「浪速扇 大阪市心斎橋一丁目久保田扇舗製 電話南三三三番」と発行元の扇子屋があるが現存せず。
(2008年1月追記)じゃが連の石橋さんがこの久保田扇舗製の道具一式を入手したとのことで、点式と合わせて写真を撮らせて頂きました。
投扇興図会
(〜ずえ)
一冊 遊戯     東京都立中央図書館加賀文庫 メモ書きのような点式の図解だけ。
投扇興見立句合
(〜みたてくあわせ)
一冊 雑俳 青々亭里春   松宇文庫
(伊藤松宇による古俳書の収集)
「新年」の季語である「投扇興」を詠み込んだ句集?
投扇名点づくしせりふ
(〜めいてん〜)
  鸚鵡石         劇代集による
世登濃登起   絵俳書         投扇興で遊ぶ絵がある
源氏品さだめ 一冊     江戸末     戍の春とあり 投扇興仕様 絵入

 本格的に投扇興の古文書や古い点式を集めようと思ったら、やはり古書店を当たることになります。もちろんかなりのお金が必要になるでしょう。東都浅草投扇興保存振興会でも、相当な額を費やして研究を重ねたと伺っています。
 最近ではホームページを開設して在庫情報を公開している古書店もいろいろありますが、たまに投扇興関連の文献が入っていることもあり、そういう店に電話してみると、店主さんのウンチクがいろいろ聞けたりします。
 ただ、そういう文献は入荷と同時に売れてしまうことも多いようで、確実に入手するには、店主と常日頃から仲良くしていることが必要かもしれません。道具(枕や蝶など)も一緒に持ち込まれることもあるそうです。


史料(特に原本)を探す場所には、上の表に出てきた以外にも次のような施設があります。

江戸東京博物館(東京都墨田区横網)…最上階に図書館があります。

他、遊戯具に関する本(→参考文献)など現代の書籍は、最寄りの図書館でもけっこう見つけられます。私は小田急線本厚木駅前の厚木市立図書館を主に利用しています。最近では、インターネットによる古書の通販もなかなか便利になってきており、それで入手した書物もいくつかあります。


余談
日本の年号表記から西暦を調べるのはけっこう手間がかかるものですが、実はそのままインターネットの検索にかければ簡単にわかってしまうことが多いことが気づいて、随分と楽になりました。
あと、よく出てくる「文庫」について、こちらによると、

  1. 東北大学の「狩野文庫」
  2. 東京都立中央図書館の「加賀文庫」
  3. 名古屋の蓬左文庫・尾崎久弥コレクション

が「3大文庫」といわれるそうです。これに愛知県西尾市の「岩瀬文庫」を入れて「4大文庫」とも。
ここらへんは理系の私にとっては今まで全く知らない世界で、この「投扇興研究室」の作成に当たって勉強になることが多いです。
東京都立図書館の文庫については、こちらに利用案内があります。