右下に「弘化二年己八月」、左下に「天保十五辰年再板 八木均三郎」と記されたこの銘定表は、現在の浅草や京都で用いられている源氏物語形式の銘定とある程度共通する部分もありますが、かなり違う部分もあります。
年代についてですが、「天保」は天保15年12月2日に「弘化」に改元していますので、「再板」したのが天保15年で、翌年に印刷されて売られた、ということでしょうか…? まぁ細かいことはともかく、要するにその時代に使われていたもので、内容は以下のようになっています。
(くずし字の解読がちょっと心配ですが、タイトルにあるように「源氏物語の巻名」なのは確かですからそれほど間違ってはいないと思います…)
銘 | 得点 | 形態 | 浅草 40種の銘 |
浅草 の得点 |
---|---|---|---|---|
花ちるさと | 無点 | 扇と蝶がバラバラに落ちている | 花散里 | 1点 |
ふちはかま | 一、 | 蝶は落ちず、扇は要を上にして枕にかかる | 藤袴 | 2点 |
うすくも | 二、 | 扇は落ちた蝶の上に地紙部分で重なり、蝶の一部が外に出る | 夕霧 | 5点 |
せきや | 二、 | 蝶は落ちず、扇は地紙の端を上にして枕にかかる | 関屋 | 1点 |
あほひ 葵 | 二、 | 蝶は落ちず、扇は要を下にして枕にかかる | 関屋(加点) | 3点 |
ゑあわせ | 三、 | 蝶は枕の上の地紙の端に落ちる | 絵合 | 4点 |
さわらび | 四、 | 蝶も扇も地に落ち、蝶は立つ | 早蕨 | 10点 |
かしわぎ | 五、 | 蝶も扇も地に落ち、蝶は扇の要と重なる | 柏木 | 8点 |
あつまや | 五、 | 蝶と扇が枕を挟んで向かい合い、蝶は立つ | 東屋 | 13点 |
すえつむ花 | 二、 | 蝶と扇が枕を挟んで向かい合い、蝶は倒れる | 末摘花 | 3点 |
ゆうぎり | 六、 | 蝶が完全に扇の下になっている | 夕霧 | 5点 |
むめがえ | 七、 | 枕、扇、蝶が一直線上にあり、蝶が立っている | 匂宮 | 13点 |
もみちのか | 五、 | 蝶が扇の地紙の端で重なっている | 紅葉賀 | 4点 |
にほふみや | 五、 | 枕、蝶、扇が一直線上にあり、蝶が立っている | 早蕨 | 10点 |
わかなの下 | 七、 | 扇は要を下にして枕にかかり、蝶は枕より向こうで倒れる | 行幸 | 4点 |
やとりき | 八、 | 扇は枕にかかり、蝶は扇の内側にある(?) | 薄雲(?) | 8点 |
さかき | 九、 | 扇は要を下にして枕にかかり、蝶は扇の親骨に踏まれる | 賢木 | 8点 |
あさかお | 八、 | 蝶が扇の骨の上に乗る | 朝顔 | 7点 |
すすむし | 八、 | 扇は落ちた蝶の上に地紙部分で重なり、蝶の一部が要側に出る | 夕霧 | 5点 |
ゆふかお | 八、 | 蝶が扇の地紙の上に乗る | 夕顔 | 5点 |
まつ風 | 五、 | 扇は落ち、蝶が枕の上で倒れる | 松風 | 5点 |
花のゑん | 十、 | 扇は落ち、蝶が枕から吊られる | 花宴 | 7点 |
ほたる | 五、 | 扇と蝶が落ち、蝶は扇の要のそばにある | 花散里 | 1点 |
すま | 十、 | 扇は要を上にして枕にかかり、蝶は正反対側に落ちる | 須磨 | 6点 |
わかな上 | 十、 | 扇は両褄上がり(天晴れ)の形で枕にかかり、蝶は枕の上で倒れる | 若菜下 | 8点 |
わかむらさき | 十五、 | 扇は要を下にして枕にかかり、蝶が立っている | 若紫 | 13点 |
とこなつ | 十三、 | 扇は要を下にして枕にかかり、蝶は枕の上で倒れる | 若菜下 | 8点 |
志ゐかもと | 二十五、 | 扇は要を上にして手前側で枕にかかり、蝶はさらに手前で立つ | 若紫(?) | 13点 |
てならい | 一、引 | 扇が蝶に当たらず地に落ちる | 手習 | 無点 |
はつね | 二十、 | 扇は要を上にして枕にかかり、蝶は枕の上で倒れる | 若菜下 | 8点 |
うつせみ | 十五、 | 扇は要を下にして枕にかかり、蝶は枕から吊られる | 空蝉 | 18点 |
たけかわ | 十五、 | 扇は両褄上がり(天晴れ)の形で枕にかかり、蝶は地に落ちる | 行幸 | 4点 |
あげまき | 十五、 | 扇が地紙の端で枕にかかり、蝶は地に落ちる | 総角 | 5点 |
あかし | 二十、 | 扇は要を上にして枕にかかり、蝶は正反対側で立つ | 明石 | 15点 |
たまかつら | 四十五、 | 扇は両褄上がり(天晴れ)の形で枕にかかり、蝶は立つ | 若紫 | 13点 |
まほろし | 四十、 | 扇は両褄上がり(天晴れ)の形で枕にかかり、蝶は枕から吊られる | 空蝉 | 18点 |
まきはしら | 六十、 | 扇は要を上にして枕にかかり、蝶は扇の要から吊られる | 真木柱 | 30点 |
ふぢのうらは | 三十五、 | 扇は要を上にして枕にかかり、蝶は枕の反対側で枕から吊られる | 空蝉 | 18点 |
かけろふ | 五十五、 | 扇は両褄上がり(天晴れ)の形で枕にかかり、蝶は扇の内側で枕から吊られる | 空蝉 | 18点 |
はしひめ | 四十、 | 扇が地紙の端で枕にかかり、蝶は立つ(総角で立つ) | 若紫 | 13点 |
こをばい | 四十五、 | 扇は要を下にして地紙の端で枕にかかり、もう一方の端が立った蝶にかかる | 若紫 | 13点 |
うきふね | 五十、 | 扇の地紙の上で蝶が立つ | 浮舟 | 30点 |
よもぎふ | 五十、 | 立った蝶に扇がかぶさる | 蓬生 | 35点 |
みをつくし | 五十五、 | 扇が枕に乗り、蝶は地に落ちる | 澪標 | 11点 |
をとめ | 六十五、 | 扇が枕に乗り、蝶は枕から吊られる | 少女 | 30点 |
ははきぎ | 九十、 | 扇は両褄上がりの形で閉じたまま(?)枕にかかり、蝶は扇の内側で枕から吊られる | 空蝉 | 18点 |
きりつぼ | 七十五、 | 扇が枕に乗り、蝶は立つ | 桐壺 | 20点 |
よこふえ | 九十、 | 蝶を倒さずに、閉じた扇が枕に乗る | (胡蝶) | ? |
みゆき | 八十五、 | 扇は要を上にして枕にかかり、蝶は扇の内側で枕から吊られる | 空蝉 | 18点 |
みのり | 九十五、 | 扇は要を上にして枕にかかり、蝶は扇の地紙の縁から吊られる | 御法 | 35点 |
かかりひ | 八十五、 | 扇が枕に乗り、蝶は扇から吊られる | 篝火 | 50点 |
かてふ | 六十五、 | 扇の上の要の側で蝶が立つ | 横笛 | 35点 |
ゆめのうきはし | 一百、 | 扇が枕と立った蝶の上で橋をかける | 夢浮橋 | 50点 |
ひかるげんじ | 三百、 | 扇が枕に乗り、蝶は扇の上で立つ | (帚木) | ? |
むらさきしきぶ | 五百、 | 扇が蝶を倒さずに、蝶の上に乗る | (帚木) | ? |
のわけ | 五十点引 | 扇が枕を倒す | 野分 | -20点 |
他の源氏物語形式とは銘と形態が食い違っている例も見られます。
夕霧に当たる形にバリエーションがあったり、そもそも「夕顔」と「朝顔」の区別は浅草と全く一緒なのに、両方とも8点になっているのは不思議です。あと、どう考えても「若菜上」の方が「常夏」より難しいと思うのですが(^_^;)。
総角と関屋の違いは蝶が落ちたかどうかだけですが、得点が14点も違うのがすごいですね。
それと、なかなか興味深い発見がありました。浅草では「花散里は1点、手習は無点(コツリで過料1点)」なのに対し、都御流では「花散里も手習も無点」となっていて、「せっかく当たったのに無点?…」と初心者をがっかりさせることがあるわけですが(^_^;)、この銘定では「花散里は無点、手習は1点引」としてちゃんと区別されているのです。それなら花散里が無点でもまあ納得がいきます。しかし、「当たらないとペナルティ」とは厳しいですね。
そして野分の過料が50点! これではどんな実力者でも挽回は不可能でしょう(笑)。
そして、源氏物語54帖に無い銘があるのが非常に興味深いですね。
ただ、「投扇之記」には該当する銘があり、「光源氏」というのは「連理」、「紫式部」というのは「比翼」と同じ形です。