びっくり闘扇競

TOMYが1999年暮れに発売した、投扇興に非常によく似たゲームです。
扇は、地紙のデザインが楽しいキャラクター物になっているものの、浅草の投扇興の規格は満たしているので普段でも投げられないことはないです。その扇1本と蝶(と書いてありました)1個のセットで、わずか1680円でした。
ただ、蝶はいわゆる投扇興用の「蝶」ではなく、それこそ蝶のような形(?)の独特の、しかも重いもので、まさに子供が遊ぶためのものですね。ルールの説明や投げ方のコツなどは、イラストを多用してとても親切に書いてあります。


(資料提供:其扇庵櫻宴さん。これは「悪魔」バージョンのセットです。)

このセットには、さすがに枕までは付いていないのですが、パッケージに入っている説明書によると、枕は自作することになっています。それが大変ユニークです。「びっくり闘扇競推進会推奨の枕」として

  1. コロコロコミックと呼ばれる書物を二冊たばねて輪ゴムでとめまする。表紙の部分を正面としてお使いくだされば、よりいっそうあでやかでございます。」だそうです(笑)。
  2. 「遊戯も長じてまいりましたら、下記のような上級者用の枕も」として、まず初級用として「カップラーメンを逆さにして枕に」。どこらへんが上級者用に進んでいるのかはよくわかりません(^_^;)。
  3. 上級者には「牛乳パックの頭の部分を切って逆さにし、ペットボトルにかぶせて枕に」とのこと。要するに、だんだん面積を狭くしていく、ということを言いたいのかもしれません。

ということになっています。
確かにコロコロコミックを立てると、ほんの少しだけ高いものの、ほぼ浅草の投扇興の枕と同じくらいの高さになります。私も初心者の頃、「広辞苑」を枕代わりにして練習していたことを思い出してしまいました。


さて、注目すべきは得点表。
「天使」と「悪魔」の2つのルールがありますが、どちらも得点の基本は浅草の2000年までの26種をほぼ踏襲しています。ただし、技の名前は異なります。

その上で、自分が天使なら夕顔や朝顔だと得点が倍(それぞれ10点、14点)、悪魔なら夕霧や鈴虫の得点が倍になるのです。たとえば天使ルールでは次の表のようになります。
また、それぞれの有利な技と花散里、末摘花に関しては、3回連続で出すとボーナス得点10点が加算されます。
どちらのルールにするかは試合開始前に宣言していなければなりません。あるいはサイコロとかで自動的に決めたりしてもいいですね。
(形と点数は基本的に浅草と同じですので、浅草での銘を併記しておきます。野分や真木柱などの但し書きおよび追加点についても全く同じでした。)

名称 得点 浅草
大根(だいこん) 減点20 野分
ぽとり
(枕を打てば「こつり」)

(1点減点)
手習
(コツリ)
花散里
末摘花
陽炎(かげろう) 行幸
地獄の夢 夕霧
天国のうたたね 10
(5点の倍付け)
夕顔
ひのき舞台 松風
女桜(めざくら) 須磨
地獄の牢屋 鈴虫
天国の鳥かご 14
(7点の倍付け)
朝顔
蝉時雨(せみしぐれ) 花宴
流れ星 若菜下
はぐれ雲 10 若菜下
(扇が枕の手前)
とうろう流し 10 早蕨
いわし雲 11 澪標
破芭蕉(やぶればしょう) 13 東屋
紅葉宿(こうようやど) 13 若紫
冬風鈴(ふゆふうりん) 18 空蝉
霧氷(きりごおり) 18 帚木
雪囲い(ゆきがこい) 20 桐壺
黄昏鐘(たそがれがね) 30 真木柱
宝船(たからぶね) 30 浮舟
かまくら 35 蓬生
夢の浮雲(ゆめのうきぐも) 50 夢浮橋
天空の舞(てんくうのまい) 50 篝火
桃泉郷(とうせんきょう) 2000

ちょっと独特なのは、「薄雲」に相当する形が定義されていないこと。代わりに、若菜下のバリエーションが追加されています。
また、帚木に相当する「霧氷」が、なぜか15点ではなく18点になっています。「15」の誤植ではないことは、わざわざ(空蝉に相当する)「冬風鈴」の後に配置されていることでもわかります。その上、これに但し書きがありまして、「蝶が立てば5点増し」だと言うのです。もっとも、この的の上に扇が澪標状態で乗るというのは、かなり無理があるというか、もし実現したら「5点増し」なんてもんじゃ足りなすぎると思いますが(笑)。いわゆる「比翼」の状態ですからね。
それと、若紫に相当する「紅葉宿」に「扇が枕の手前なら2点増し」という但し書きがあります。これは当時の概念でいえば「合わせ技」を採り入れたものでしょう。現在では、あえて言うなら「明石」に相当すると思われます(厳密には、扇の位置ではなく、扇と蝶の位置関係で決まるのですが…)。

35点の「かまくら」や50点の「夢の浮雲」「天空の舞」の3つには「見事『特選』」という但し書きがついています。
それと、この的の独特の形状から、扇が仮にかなり上から飛んできた場合は「扇が上から的に突き刺さる」ことも不可能ではなく、その場合は2000点もらえることになっています。こんな高得点はどこの投扇興にも見られません(笑)。この形には「天晴(あっぱれ)『大特選』」と但し書きがついています。

それにしても、これらの独自の銘の由来がどこから来ているのか、とても興味があります。澪標が「いわし雲」、東屋が「やぶれ芭蕉」…担当者の方にお会いして聞いてみたいものです。


そして、この道具とルールにより、2000年4月29日には大会も行なわれました。いや、実際にはこの見立ては使わず、何でもありのすごい大会だったみたいですが…。さすがに、これだけの複雑な銘定を即座にこなせる行司さんは、そうそういないでしょうからね。