田中彌の源氏物語形式

京人形の田中彌さんには、源氏物語形式の独自の点式が伝えられています。ミニチュアの投扇興セットにも、この点式がついてきます。
それによると、宮脇賣扇庵や文扇堂と同じように源氏物語の巻名から銘をつけているものの、点数のつけかたや形が微妙に違うのです。しかも銘は全部で24種類のみ。桐壺、帚木…と巻の順に並べられていますが、最後は夢浮橋ではなく第24帖の胡蝶までで終わっています。
現在でもこの点式で実際に遊んでいる会などがあるかどうかはわかりませんが、ここにその点式の銘定をご紹介します。(もしも許可が得られたら、画像もアップできればと思っています)
宮脇賣扇庵の点式(都御流で用いられているもの)を、元になっている文献から「投扇式」と略称しました。

得点 形態 投扇式
の得点
投扇式
の形態
桐壺 75 扇が枕に乗り、蝶は地で立つ 75
帚木 80 蝶が枕の上で倒れ、その上に扇が乗る 80
空蝉 15 蝶は枕の上から逆さ吊り、扇は枕にかかる 15
夕顔 扇の地紙に蝶が乗る
若紫 10 蝶は地で立ち、扇は親骨を地につけて枕にかかる 10
末摘花 扇と蝶が地に落ち、枕をはさんで向かい合う
紅葉賀 地に落ちた扇の親骨の先端に蝶が乗る
花宴 蝶は枕の上から逆さ吊り、扇は地に落ちる
蝶は枕の上に残り、扇は両褄上がりで枕にかかる
賢木 蝶は地に落ち、扇はその上に乗って枕にかかる
花散里 扇も蝶も地に落ちる
須磨 10 扇は枕にかかり、地に落ちた蝶と向かい合う 10
明石 20 扇は枕にかかり、地で立った蝶と向かい合う 20
澪標 55 扇は枕に乗る 55
蓬生 35 地に立った蝶に扇が乗る 35
関屋 蝶は枕の上に残り、扇は要を下にして枕にかかる
絵合 地に落ちた扇の地紙の縁に蝶が乗る
松風 扇は地に落ち、蝶は枕の上で倒れる
薄雲 蝶は枕の上に残り、扇は親骨の先端で立って枕にかかる 枕にかかった扇の下に
蝶が落ちる
朝顔 20 扇は地に落ち、蝶は骨の部分に乗る
乙女 65 蝶は枕の上から逆さ吊り、扇は枕に乗る 65
玉鬘 30 蝶は地で立ち、扇は両褄上がりで枕にかかる 25
初音 15 扇は要を上にして枕にかかり、蝶は枕の上で倒れる 15
胡蝶 100 扇が枕に乗り、蝶は骨の隙間から逆さ吊り 85 蝶が枕上に立ったまま
扇も枕の上に乗る

これを見てもわかるように、点数のみが違うのは関屋、朝顔、玉鬘の3つ。形からして全然違うのが薄雲と胡蝶です(それ以外は、絵や文字からして投扇式の絵とかなり似ているようです)。朝顔の点数がやたらと高いのが特徴的です。
また、胡蝶の形が、投扇式なら「乙女」の加点の但し書きの形である所が興味深いです。つまり、宮脇なら75点の形だし、「胡蝶」本来の形でも85点の所を、100点も与えているわけですね。

まるっきり半分の銘しか定められていないため、夢浮橋や篝火は別になくても支障はないものの、手習や行幸、夕霧すらないわけです。これだけで遊ぶとなると、どのように銘定していくことになるでしょうか。
朝顔に鈴虫を入れ、夕顔に夕霧を入れ…というように、類似する形にあてはめていくことになるのかな。


ところで、この点式と全く同じで、タイトルの部分だけが異なる物があります。
田中彌の点式には「投扇興点式 平安田中彌」と書かれているのに対し、「投扇興点式 扇匠庵好」とあるのがそれなのですが、どちらがオリジナルなのかはよくわかりません。
「扇匠庵好」という人名らしきものも、古文書に似た名前が出てきますので、調べてみます。